花の名前
安藤敏夫
ver. 1.1 2000/04/25

花の趣味家と専門家との間で最も格差の大きいのが・・・ 花の名前に関する知識ではないでしょうか。
花店に並ぶ花の名前には一貫した規則性がないので、趣味家が混乱するのは当然ですが。
蔬菜や果樹に比べて・・・ 品目数の非常に多い花卉では、品目名をきちんと理解することが大きな課題です。
新たに紹介される品目には・・・ 和名がありません。
ですから・・・ 花卉産業では、学名をそのまま使うことも稀ではないのです。
学名を含めた【 植物の名前 】に関する深い理解は、花卉産業人になるための第一歩です。
趣味家の弱点
科−属−種−品種 という分類群が理解できない。
【種】 と 【品種】 が区別できない。
【種】 と 【種類】 が区別できない。
【属名】 と 【俗名】 が区別できない。
【学名】 が理解できない。
どれか一つにでも心当たりがあれば、もう少し勉強する必要があるでしょう。
【種(しゅ)】という重要な分類群の音が奇異に聞こえるのは・・・ 不幸なことだと思います。
つい【品種】とか【種類】と言ってしまいたくなる気持ちは理解できます。
【属名】の音が【俗名】と同じであることも・・・ やはり不幸なことです。
植物学名 (botanical name) のルール 分類群(taxon, taxa)
属: genus(単数),
genera(複数)
| 属名 | Kirengeshoma Yatabe | Kirengeshoma | 属名 | generic name | イタリック | (普通、命名者名は不用) |
| Yatabe | 命名者名 | author name | ローマン | Yatabe = Ryokichi Yatabe (1851-1809) | ||
| 雑種属名 | x Fatshedera Guillaumin | x | 雑種記号 | ローマン | ||
| Fatshedera | 雑種属名 | Fatsia x Hedera |
属名一覧: D. J. Mabberley (1987) The plant-book. Cambridge University Press.
【シクラメン】か・・・ 【キクラメン】か・・・ 【サイクラメン】か?
種: species(単数), species(複数) 省略形 sp.(単数) spp.(複数)
| 分類群名 | combination | |||||
| 種名 | Cyclamen persicum Mill. | Cyclamen | 属名 | generic name | イタリック | 名詞・大文字で始める |
| 二名法 | persicum | 種小名 | specific epithet | イタリック | 形容詞・小文字で始める | |
| Mill. | 命名者名 | author name | ローマン | Mill. = Philip Miller (1691-1771) | ||
| 亜種名 | Tulipa sylvestris L. | L. | L. = Carl von Linnaeus (1707-1778) | |||
| . subsp. australis (Link) Pamp. | subsp. | 亜種 | subspecies | ローマン | ssp. は不可 | |
| australis | 亜種小名 | イタリック | ||||
| (Link) | 旧 combination の命名者 | |||||
| 変種名 | Fuchsia magellanica Lam. | var. | 変種 | variety | ローマン | |
| . var. conica (Lindl.) L.H.Bailey | conica | 変種小名 | イタリック | |||
| 雑種名 | Petunia x hybrida Vilm. | x | 雑種記号 | ローマン | 雑種 = hybrid | |
| キメラ名 | + | キメラ記号 | ローマン | キメラ = Chimera |
命名者名一覧: R.K.Brummitt and C.E.Powell (1992) Author of Plant names. Royal Botanical Gardens, Kew.
| 注意: | 【種】(しゅ)という音が奇異に聞こえるので・・・ これを【原種】【野生種】【原生種】【自生種】などと表現することが多い。 |
| 【原種】【野生種】【原生種】【自生種】に対比する形で・・・ 品種のことを【園芸種】と言う場合も多い。 | |
| 注意: | 植物分類学では variety = 変種 であるが・・・ |
| 園芸の世界では variety = 品種 を意味することがある。アメリカではこれが普通。 | |
| 注意: | 植物分類学では・・・ 変種(variety / var.) の下位に品種(forma / f.)という分類群があって・・・ 非常に紛らわしいので・・・ |
| これを【野生品種】とよび・・・ 【園芸品種】と区別することもある。 |
品種名 cultivar name (variety name)
| 品種名 | Fuchsia magellanica Lam. | ’ ’ではなく‘ ’ | cv. Magenta Flush は不可 | cv. = cultivar 品種 |
| ‘Magenta Flush’ |
| 品種名一覧: | The RHS Plant Finder / 毎年 / The Royal Horticultural Society / 現在 70,000 品種掲載 |
| 日本花き取引コード(品種) / 年3回の予定 / 日本花き取引コード普及促進協議会(日本花普及センター内) / 現在 28,267 品種掲載 |
ランの場合
| Vanda Miss Joaquim | Miss Joaquim | 組合せ小名 | grex epithet | hybrid name | ローマン・大文字で始める |
| ‘Juliet’ | ‘Juliet’ | 個体名(栽培小名) | fancy name | variety name | ローマン・大文字で始める |
| 組合せ小名一覧 | Sander's List of Orchid Hybrids | .サンダーズリスト。現在2年毎。The Royal Horticultural Society(RHS). |
| サンダーズリストのオンライン検索 | Orchid Search grex epithet から検索。RHS. | |
| Sanders Searches Venger's Orchids. | ||
| サンダーズリストのCDロム版 | Wildcatt Orchids Database Homepage |
品目名 ・ 系統名(タイプ名) ・ シリーズ名 ・ 品種名
花卉産業で扱う植物を把握するには、以下の呼称の区別が有効。
| 1 | 品目名 | item | 植物群の総称。 | 必ずある |
| 2 | 系統名 | type | 特徴のある品種群に対して自然発生的に与えられる呼称。 重要花卉には、世界共通の系統名が定められているものもある。 |
無い場合もある |
| 3 | シリーズ名 | series | 育成者や種苗会社が与える品種群名。 | 無い場合もある |
| 4 | 品種名 | cultivar | 育成者や種苗会社が与える個称。 | 原種以外は必ずある |
| 1 | 品目名 | キク |
| 2 | 系統(タイプ)名 | 輪ギク |
| 3 | シリーズ名 | (なし) |
| 4 | 品種名 | ‘秀芳の力’ |
| 1 | 品目名 | ペチュニア | |
| 2 | 系統(タイプ)名 | カスケード | カスケードタイプ |
| 3 | シリーズ名 | サフィニア | サフイニアシリーズ |
| 4 | 品種名 | ‘パープルミニ’ |
| 1 | 品目名 | カーネーション | |
| 2 | 系統(タイプ)名 | スプレイ | スプレイカーネーション・スプレイタイプ |
| 3 | シリーズ名 | ソネット | ソネットシリーズ |
| 4 | 品種名 | ‘ソネット マリア’ |
(注)花市場では・・・ しばしば
【品名】(ひんめい)
という呼称を使いますが・・・
これは
【品目名】、【系統名】、【シリーズ名】、【品種名】のどれかを指すが、規則性がないので混乱の原因となっています。
(注)シリーズとは・・・ 花色と花柄だけが異なり・・・ それ以外の特性(特に生育特性)が同一の品種群、と定義できるが・・・
実際には、品種毎に若干特性が異なるのも事実。
育種者には、シリーズの斉一性(series uniformity)が強く求められている。
近年・・・ シリーズとしなければ売りにくい・・・ という種苗会社の事情が背景にある。
こぼれ話 花屋さんは・・・ 語尾がお好き
【品目 = 属】 の場合 (これが望ましい)
1)品目名 = 属の和名 例 ユリ(百合)
ユリという種はない。【ユリ】の指す範囲は【ユリ属(Lilium)】の指す範囲と同じ。
2)品目名 = 属の英名 例 チューリップ(Tulip)、マリーゴールド(Marigold)
チューリップという種はない。【チューリップ】の指す範囲は【チューリップ属(Tulipa)】の指す範囲と同じ。
3)品目名 = 属名(ラテン語あるいはラテン語化した他言語) 例 シクラメン(Cyclamen)
シクラメンという種はない。【シクラメン】の指す範囲は【カガリビバナ属(Cyclamen)】の指す範囲と同じ。
【カガリビバナ】が普及せず、その代わりに属名が普及したもの。
【スイセン(水仙)】の場合、現在は【ユリ】と同じ扱われ方ですが、日本にニホンスイセンしかなかった時代、【スイセン】は現在の《ニホンスイセン》を指す種の和名であったと思われます。
その後、様々な品種が導入された結果、種の和名であった【スイセン】が属の和名に格上げされ、それに代わって種の和名として《ニホンスイセン》が使われ始めたものと思われます。
【品目 = 種】 の場合 (種が属を代表しているので・・・ 同属他種が流通しない限り問題はない)
1)品目名 = 種の和名 例 アサガオ(朝顔)、ヒマワリ(向日葵)
【アサガオ】は Pharbitis nil (L.) Choysy という種の和名。
2)品目名 = 種の英名 例 スイートピー
【スイートピー】は Lathyrus odoratus L. という種の英名(sweet pea)。
注意: 現在、宿根性の同属他種が流通しているので・・・ 【スイートピー】 = スイートピー属と捉えることも可能。
【品目 = 系統】 の場合 (理想的ではないが・・・)
Iris 属は・・・ 種ごとに立派な品種が発達しているため・・・ 品目名に・・・ 本来は系統名である・・・
ハナショウブ、カキツバタ、アヤメ、ジャーマンアイリス、ダッチアイリス、ルイジアナアイリス
を取り上げることも可能。
| 同様の例は・・・ | ペオニア(Paeonia) | = | ボタン | + | シャクヤク |
| サルビア(Salvia) | = | サルビア(花卉としてのSalvia) | + | セージ(ハーブとしてのSalvia) | |
| ビオラ(Viola) | = | パンジー | + | スミレ | |
| ロドデンドロン(Rhododendron) | = | シャクナゲ | + | ツツジ(アザレア) |
【品目 = シリーズ】 の場合 (好ましくない)
例 サフィニア
【サフィニア】は、ペチュニアの1シリーズ名。
ペチュニア・サフィニアシリーズとはせず・・・ 【サフィニア】だけで売る方法は、種苗会社の販売戦略。だが、「サフィニア」 と 「ペチュニア」は違う・・・ なんて、トンチンカンな事を言う人が出てきてしまいます。
奇妙な現象
| 種小名だけで流通: | 例 オクロレウカ 非常にまずい。 |
| 【オクロレウカ】は、Iris ochroleuca L. の種小名を流通名にしてしまった例。 | |
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| 品種名だけで流通(1): | 【グラウカ】は極めてまずい例で、Picea glauca (Moench) Voss の種小名から始まったのかもしれませんが・・・ |
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| など、針葉樹の品種名にはたくさん‘Glauca’があって、どの種だか全く区別がつきません。なにせ・・・ glauca は「灰色の」という形容詞に過ぎないのですから。 |
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| 品種名だけで流通(1): | 例 カサブランカ |
| 【カサブランカ】は、ユリ(オリエンタル系)の一品種 ‘Casa Blanca’の品種名だけで流通しており・・・ | |
| 「カサブランカ」 と 「ユリ」はどこが違うの? というトンチンカンな質問をする人が出てきてしまいます。 |
総称と個称
属名・品目名・系統名・シリーズ名 は総称です。
種名・品種名 は個称です。
【ホトトギス】というと
1)ホトトギス [ Tricyrtis hirta (Thunb.) Hook. ] という種を指す場合と・・・ (個称)
2)ホトトギス属(Tricyrtis)という属を指す場合があります。 (総称)
従って、【ホトトギス】を品目名に使うことができます。
【クリスマスローズ】は・・・
1)Helleborus niger L. という種を指す英名ですが・・・ (個称)
2)Helleborus という属の名前としても、使いたくなります。 (総称)
ところが・・・
【 クリスマスローズは Helleborus niger L. のことであり、Helleborus 属の総称ではない 】
と主張することが、ちょっと植物にうるさい人たちの間で、最近はやっています。しかし・・・
最新園芸大辞典(誠文堂新光社)は・・・
Helleborus (ヘレボルス属)クリスマス・ローズ属
と明記してますので、クリスマスローズを総称(品目名)として使っても許される、と私は思います。
総称は非常に便利なのです。
どうして・・・ 【花卉園芸必修1000属検定】なのか・・・
非常に種類の多い花卉では・・・ まず総称(品目名)を覚えるのが先決です。
品目名=属名 である場合が多く・・・
これから登場する新しい品目は、ほとんどすべて 品目名=属名 として扱われるものと思われます。従って、属名を覚えておけば・・・ 先輩の花卉産業人と会話は可能となるからです。
朝顔 と アサガオ
ここで挫折。
続きはテキストで。
インタネット受講者には・・・ また来年。
