國分 尚の研究テーマ
Petunia altiplanaの葉緑体DNAの種内変異

自生地のPetunia altiplana

目的

Petunia altiplanaはブラジル南部の高原地帯に分布するほふく性の種で、育種材料として有望である。私達は広義のPetunia属の系統分類を葉緑体DNAのRFLPによって行っているが、その結果、P. altiplanaのタイプ標本の種子から育てた植物では葉緑体DNAに約200塩基の欠失と推定される多型があることが判明した。今回、P. altiplanaの遺伝的多様性を明らかにするための一助としてこの欠失が利用できたので報告する。

材料および方法

1988〜1999年に野生群落106群落より採取したP. altiplanaの種子から各群落10個体を育成し、CTAB法によって若い葉から全DNAを抽出した。抽出したDNAを制限酵素Alu Iで切断し、タバコ葉緑体DNAクローンpTB7をプローブとしたサザンハイブリダイゼーションによって制限断片長の多型を観察し、その分布を調査した。

結果および考察

106群落中、26群落で約200塩基の欠失が見られ、そのうち4群落では欠失をもつ個体ともたない正常個体が混在していた。DNA欠失群落は3つの地域に集中して見られ、混在群落はそれらの地域と正常群落との境界付近にあった。この結果から、P. altiplanaの葉緑体DNAは一様ではなく、2種類以上の別の起源を持っていることが判明した。一般に遺伝子の多型は種分化に先立って起きることが知られているが、今回の多型は現在までのところP. altiplanaのみで観察され、この突然変異が比較的最近起きたことが示唆された。また、欠失個体と正常個体が混在する群落が見つかったことは、葉緑体DNAの動態を考える上で興味深い。さらにこのことは、分子系統樹を解析する上で1種1個体か多くても数個体しか供試していない現在の研究手法に警鐘を鳴らすものである。今後は欠失部分の詳細を調査するとともに、P. altiplanaと分布域の接する他種についても分析を行っていきたい。

ブラジル・サンタカタリーナ州とリオグランデドスル州産 Petunia altiplana の野生群落で、葉緑体DNAに200塩基の欠失をもつ群落と正常な群落の分布を示しています。

図はブラジル・サンタカタリーナ州とリオグランデドスル州での Petunia altiplana の野生群落の調査地点を示す。青丸は正常な群落、白抜きの赤三角は葉緑体DNAに200塩基の欠失をもつ群落、赤の三角は欠失個体と正常個体が混在する群落を示す。

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2001年7月8日作成、2001年12月11日更新

國分 尚
hkokubun@faculty.chiba-u.jp