Oryza sativa L.とOryza glaberrima Steud.の成熟後の生育と生存

坂上潤一.礒田昭弘・野島博・高崎康夫(千葉大学)

要旨:イネ栽培種のO. sativa L.とO. glaberrima Steud.の成熟後における生育の特性を明らかにするために,O. sativa10品種,O. glaberrima5系統を供試して,成熟期の生育状態と成熟後の分げつ発生およぴ個体生存の差異を刈取区と無刈取区について,生育に適した温度条件,長・短日条件下で比較した.成熟期の茎部のデンプン含有量(率)はO. sativaO. glaberrimaに比べて高く,茎切片の節から伸長する総節根数,側芽の総葉身長もO. sativaが高い傾向を示した.成熟(刈取)後には両種とも新しい分げつが発生した.長日無刈取区における成熟期以降の生存茎数は,高位分げつの発生により一時的にO. glaberrimaが多くなったが,それ以降はO. sativaの方が常に多かった.また長日条件では短日条件よりも多く,無刈取区では刈取区よりも多い傾向があった.成熟後約8カ月(250日)の生存個体はO. glaberrimaが0で,全ての品種の個体が枯死した.O. sativaでは日本型の品種の生存率が高いのに対し,日印交雑を含めた印度型は低く,印度型の一部の品種では全ての個体が枯死した.長日条件は生存期間を延ばす方向に影響を及ぼした.このことから,基本的にはO. sativaO. glaberrimaの大部分は成熟(刈取)後も分げつの発生によって生存を継続し,潜在的な多年生の特徴を持つと考えられた.成熟期の生育状態,成熟後の分げつの発生およぴ個体の生存からみて,多年生的性質はO. sativaが強くO. glaberrimaは極めて弱いが,O. sativaの中にはO. glaberrimaの系統と同様に枯死する品種がみられ,種内変異が大きいと考えられた.キーワード:一年生,O. glaberrimaO. sativa,生存率,節の活性,多年生,デンプン含有率,分げつ発生.