系統分類学

アガパンサスはユリ科?ヒガンバナ科?ネギ科?

2004年10月27日

アガパンサス属(Agapanthus)は花が子房上位であることから長らくユリ科に分類されてきました。多くの園芸書では今でもユリ科となっているはずです。しかし、従来のユリ科が巨大で雑多な系統を含むことは明らかであり、これを細分してもう少し扱いやすい形にしようというのが植物学者の共通した見解です。例えば、ハランとヤマユリが同じユリ科だったのはやはり不自然でしょう。その流れの中でアガパンサスは散形花序を持つことからネギ科として分類されることもありました。

さて、今回も結論から言ってしまうと、アガパンサスはアガパンサス科として独立させるのが適当です。ネギ科とヒガンバナ科をすべて含めて広義のアガパンサス科(ヒガンバナ科と呼ぶ方が適当でしょうが)とすることもできますが、ネギ科、ヒガンバナ科ともにいろいろな形質でまとまりがよいので、アガパンサス科が単型科(一つの属からなる科)になってしまっても、3つに分けた方がよいように思われます。

アガパンサス科と類縁の科を図示します

さて、この図はアガパンサス科を含むクサスギカズラ目(むしろアヤメ目やヒガンバナ目と呼んだ方がわかりやすい気もしますが、学名はAsparagalesです)の系統を示します。詳しいことは回を改めて書きます。この分類は葉緑体DNAの塩基配列によるものですが、Dahlgren, Clifford and Yeoは1985年に形態と化学成分などの多くの形質を使って単子葉植物全体を再分類しています。塩基配列の分析はこの新しい分類を下敷きにすることが普通で、形態による分類をDNAによって検証する形になっています。そして、彼らの分類は細かい点で修正する必要があるものの、大筋では正しかったことがわかってきました。

アガパンサスもDahlgrenらはネギ科に含めていますし、ネギ科の隣にはヒガンバナ科を配置しています。やはり進化の道筋は生物にしっかりと刻み込まれていて、植物をじっくりと観察するとそれが自然に明らかになることを示唆しているようです。

参考文献

Dahlgren, R.M.T., H.T. Clifford, and P.F. Yeo. 1985. The families of the monocotyledons. Springer-Verlag.

栗田子朗. 1999. ヒガンバナの博物誌.

Meerow, A. W., M. F. Fay, C. L. Guy, Q.-B. Li, F. Q. Zaman and M. W. Chase. 1999. Systematics of Amaryllidaceae based on cladistic analysis of plastid rbcL and trnL-F sequence data. American Journal of Botany 86: 1325-1345.


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2004年10月27日作成、2004年11月12日更新

國分 尚
hkokubun@faculty.chiba-u.jp