研究の概要


 研究の対象とする病害は、主に菌類病です。千葉大学の植物病学分野では伝統的に土壌伝染性病害を研究対象とすることが多いですが、僕の研究テーマでは、その他のものも近年増えてきました。トマト半身萎凋病菌(Verticillium dahliae)については、病原性機構の遺伝学的研究を中心に、基礎的内容の研究を行っています。しかし、新レースの発生や複合病害など、栽培現場で生じる諸問題を分析する研究課題もあります。大学らしい基礎研究も大切にしたいと考えていますが、植物病(理)学は栽培上の問題を汲み取って解決していく学問ですから、「栽培現場と密接に関係した研究」を目指しています。



Verticillium dahliaeとは?

 トマト半身萎凋病、レタスバーティシリウム萎凋病などの病原菌であるVerticillium dahliaeは、非常に多くの種類の双子葉植物に感染する土壌伝染性の道管病菌です。本菌は微小菌核と呼ばれる耐久生存体を形成して土壌中に生存し、植物根に感染して道管に蔓延し、葉の萎凋や黄化、道管の褐変を引き起こします。


トマト半身萎凋病の病徴(左)と病原菌Verticillium dahliae(右)


Verticillium dahliaeの感染・蔓延様式の模式図




近年の研究テーマ


Verticillium dahliaeに関する研究

V. dahliaeの病原性を決定する遺伝因子の解明

 V. dahliaeには、トマトに病原性を示す菌株(トマト系)と、示さない菌株(非トマト系)がいます。この病原性の違いを決定する遺伝因子を特定して、病原性メカニズムを解明し、最終的には防除に役立てられる情報の獲得を目指します。近年は、トマト系と非トマト系を遺伝的に交雑し、病原性を示す雑種株だけが持つ染色体(下図のピンク色の染色体)の解析を行っています。


・トマト半身萎凋病菌レース3の遺伝的位置付けおよび非病原力因子に関する研究

 近年日本において、トマト半身萎凋病のレース2に対して抵抗性を示す台木品種が開発されましたが、生産現場にはすでにこの抵抗性を打破する新レース(レース3)が存在しています。レース3の分布や性状、発生機構を解明して、生産現場における耕種的防除や新品種の育成に役立つ知見を得ます。また、菌のレース分化機構の解明も目指します。

・キタネグサレセンチュウによるレタスバーティシリウム萎凋病の発病助長(複合病害)に関する研究

 レタスはV. dahliaeによる病害が発生しにくい宿主として知られていました。しかし、2009年に茨城県において、V. dahliaeによるレタスの病害が突然発生しました。レタス圃場にはキタネグサレセンチュウも分布しており、これがV. dahliaeによる病害の発生を助長することも考えられたため、その因果関係を調査して防除に役立てます。


・茨城県に発生したレタスバーティシリウム萎凋病菌の遺伝的バリエーション
 V. dahliaeによるレタスの病害が茨城県において突然発生しましたが、どのような菌株が病害を引き起こしたのかを詳しく調査し、発生の原因を考察します。


レタスバーティシリウム萎凋病の病徴(左)とキタネグサレセンチュウ(右)


◆その他の土壌病害に関する研究

・レタス根腐病菌の遺伝的なバリエーションとレタス品種の抵抗性の関係

 レタス根腐病は、Fusarium oxysporum f. sp. lactucaeによって引き起こされる重要病害で、国内各地のレタス産地で問題になっています。本菌にはレース分化が認められ、群馬県では主にレース2が、茨城県では主にレース1が発生しています。また、一部の地域では、これまでの抵抗性品種を全て打破するレース3も発生しています。各地に発生しているレースの遺伝的性質を調査してレースの広がりを疫学的に考察します。また、レタスの持つ抵抗性遺伝子と各レースの遺伝型との関係を調査し、抵抗性品種を利用して効率よく病害を防除するための情報を得ます。


レタス根腐病の病徴(左)とFusarium oxysporum(右)


◆養液栽培や植物工場の病害に関する研究

・レタスに発生した褐斑病とセロリに発生した斑点病は同じ菌が原因か?

 国内の養液栽培施設で、セロリ斑点病が発生しました。その後、同じ施設でレタス褐斑病が発生しました。両病害はいずれもCercospora属菌によるものですが、Cercospora属菌の分類が整理されていないこともあり、同じ菌が2つの植物に病気を起こすのか、それとも異なる菌なのか、判然としません。病原菌がレタスとセロリに相互感染するか否かを明らかにすると同時に、それぞれの植物から分離された菌の性質を調べて病害防除に役立てます。


レタス褐斑病(左)とセロリ斑点病(右)


Plectosphaerella属菌の系統と病原性の関係

 湛水式水耕栽培で発生するレタスのプレクトスフェレラ腐敗病は、Plectosphaerella pauciseptataP. cucumerinaによって引き起こされると報告されています。しかし、Plectosphaerella属にはこれらの種に近縁な様々な系統が存在し、それらのうちいずれがレタスに病害を引き起こすのか、判然としません。そこで、Plectosphaerella属の種や系統と病原性の関係を調査し、防除のための基礎的な知見を得ます。


・レタスプレクトスフェレラ腐敗病の発病と養液pH、レタス品種の関係

 水耕レタス栽培におけるプレクトスフェレラ腐敗病の発生リスクを抑えるため、病害に強いレタス品種の探索や、養液pHと発病の関係の調査などを行い、病害防除の可能性を探ります。


レタスプレクトスフェレラ腐敗病の病徴(左)とPlectosphaerella pauciseptata(右)


◆新規病害の報告と性状調査

 共同研究先から病害診断・分析の依頼を受ける場合があり、これをきっかけとして、新規の病害や病原菌の発見に至ることがあります。これら新規病原菌の分類学的な位置付けを明らかにするとともに、性質等を調査して防除のための基礎的な情報を得ます。下に写真を示した病害は、いずれも近年新病害として報告したものです。上述したプレクトスフェレラ腐敗病も同様です。新病害の発見をきっかけとして、発展的な研究に進んで行く場合もあります。


仏炎苞に発生したカラー斑点病の病斑(左)とセロリのジベルロプシス腐敗病(右)

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