ツタ褐色円斑病菌 

ツタ褐色円斑(まるはん)病は、不完全菌類Phyllosticta ampelicidaによって引き起こされる病害です。下の写真のように、ツタの葉に赤褐色の円形もしくは不整形の病斑を生じます。ツタの植栽に非常によく見られる病害ですので、注意して探してみて下さい。

この病斑ひとつをよく観察する(ルーペなどを用いるといいですね)と、病斑の中に黒い点々が見えます。

この黒い点々は柄子殻です。柄子とは、いわゆる分生子(分生胞子)のことですので、柄子殻を分生子殻とも呼びます。柄子殻の黒い点ひとつを拡大すると、下の写真のように見えます。真ん中に噴火口のような穴が開いていて、ちょうど富士山を真上から見たような感じです。実は、柄子殻の中にはたくさんの分生子が形成されていて、それがこの穴から外に飛び出して伝染源となるのです。

柄子殻を縦にスライスして顕微鏡で観察すると、こんなふうになっています。タマネギ型の柄子殻が葉の内部に埋没するかたちで形成され、頭の部分(上の写真の富士山)が表面に突き出しています。中に丸い分生子がたくさん入っているのがわかります。分生子は硬い殻である柄子殻に護られて越冬し、春には第一次伝染源となります。この点では、柄子殻は子のう菌類の子のう果(うどんこ病菌では閉子のう殻)と似ています。ただし、子のう胞子が有性胞子であるのに対して、柄子殻内の分生子は無性胞子です。

ツタはブドウ科の植物ですが、じつはPhyllosticta ampelicidaはブドウの重要病害である黒腐病の病原菌としても知られています。ただし、上記で紹介したツタ褐色円斑病菌をブドウに接種しても病原性は認められないようです。また、ブドウ黒腐病菌では完全世代(Guignardia bidwellii)が知られていますが、ツタ褐色円斑病菌の完全世代は未だ報告されていません。生物学的には同一の種に分類はされていますが、ツタ褐色円斑病菌とブドウ黒腐病菌は遺伝的に異なる菌なのかも知れません。



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