富士山高山帯におけるオンタデの地上部・地下部形態と礫径との関係

 富士山の高山域(標高約2,400 m以上)では,オンタデという多年草が広く分布しています. しかし,フト足元を見ればゴツゴツとした礫(レキ)砂漠・・・. 1,2 cm程度の礫ならともかく,場所によっては数十cmもある「岩」とも呼べる礫がゴロゴロとしています. こんなところで,オンタデはどうやって生育しているのでしょうか??


【オンタデ】
調査対象のオンタデです.タデ科の多年草です. 秋には地上部は枯れ,翌年の春に再び地上部が生えてきます. このようにして,何十年も生きます.


5 m四方のコドラートを何十個も設置し, コドラート内に生えている全てのオンタデについて直径,高さ,花序数などをものさしで計っていきます. 1コドラートに100個体以上もいるので大変です. 毎日10時間も四つん這いになっているので, 膝には痣ができ,腰,肩がミシミシいってきます・・・.
【調査区の設置】


【溶岩が露出するような礫が大きい場所】
溶岩がゴツゴツ出ているところでは,さすがのオンタデも生育しにくいらしく, 個体数が非常に少ないです.上の写真の場所に比べ,10分の1程度の個体数でした.


環境省の厳しい許可申請をパスし(2年越し!),念願の根の調査へ. 地上部の直径は数cmでも,根を掘り返してみると太さ5 cm以上,深さ1 m以上も伸びています. 側根は実に長さ5 m.これらの根が乾燥,表面礫の移動,養分不足などの苛酷な環境からオンタデを守り,その生育を支えているようです. まさに縁の下の力持ち!!
【一般の人はマネして掘ってはいけません!】


【調査地からの眺め】
どんなに調査がツラくても,この景色を見れば疲れも吹っ飛びます. 南アルプス,富士五湖が一望できます.この写真は河口湖方面.


 調査の結果,礫が大きい場所では@個体数が少ない,A大型の個体のみが生育している, B太い側根(横方向に伸びる根)が発達している,などの傾向が見られました. 一方,礫が小さい場所では@個体数が多く,A小型の個体のみが生育している, B太い側根は見られない代わりに大量の細根が発達している,などの傾向が見られました.
 広く一様に分布しているように見えても,オンタデの分布密度や個体サイズは, 生育地の礫サイズによって大きく違っていることが分かりました. そして,根の形態の違いが,それぞれの環境への適応に大きく貢献しているようです.