【プレスリリース】遺伝情報解読のしくみについての新発見:タンパク質の合成メカニズムに迫る
掲載日:2024/11/13
園芸学研究院の相馬 亜希子 講師は、東京大学、Brigham and Women's Hospital、理化学研究所の研究グループとの共同プロジェクトにより、DNAの遺伝情報からタンパク質を合成する新たなメカニズムを明らかにしました。
「生命の設計図」であるDNAからmRNAにコピーされた遺伝情報はA(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、U(ウラシル)の4つの文字から構成され、3つの文字の組み合わせ(コドン)で1つのアミノ酸を作ります。
例えば「AUG」というコドンはメチオニン、「UUA」というコドンはロイシンというアミノ酸を指定し、このコドンの情報をtRNAという分子が読み取ることでアミノ酸がつながり、その重合体であるタンパク質が合成されます。
しかし、イソロイシンというアミノ酸のコドンがtRNAによってどのように読み取られるのか、植物のミトコンドリアや葉緑体、および一部の生物ではそのメカニズムが分かっていませんでした。
tRNAを構成する4つの文字A, G, C, Uは塩基とよばれ、細胞内では様々な化学的変化を受けて修飾塩基となることが分かっています。
本研究では、植物と病原性バクテリアという進化的に遠い生物のtRNAから新たな修飾塩基「ava2C(2-アミノバレラミジジン)」を発見し、イソロイシンを指定する「AUA」コドンの読み取りにおいてこの修飾塩基が重要な役割を果たすことを明らかにしました。
【社会への影響】
それぞれの生物がどのようにコドンを解読しているかを明らかにすることは、生命の根幹を担う遺伝暗号とタンパク質合成システムの進化を考える上で非常に重要です。
本研究は、遺伝情報の読み取りがtRNAの修飾塩基によって調節されていることを突き止めました。こうした基礎研究は知的資産の蓄積だけでなく、医療や農業分野への応用が期待されます。
例えば、病気に耐性を示すタンパク質や機能性物質を効率的に合成できる農作物の作出や、病原性バクテリアの修飾塩基をターゲットにした新たな治療法の開発が可能になるかもしれません。
コロナウイルスのゲノム解析やRNAの修飾塩基の研究がRNAワクチンの開発につながったように、生命現象の基本的な分子メカニズムを理解してその知識を活用することで、人類にとって有用な新しい技術や治療法を生み出すことができます。
【今後の展望】
DNAシーケンシングの技術や装置の性能の向上により生物の全ゲノム配列(塩基の並び)を決定することは容易になりましたが、そのDNA配列の「意味」を理解することはいまだ発展途上です。
本研究成果は、パズルのように複雑な遺伝情報のタンパク質への変換メカニズムを理解するための重要な手がかりとなります。
研究を進めることで、遺伝情報の解読のしくみについてさらなる新しい発見や、医療やバイオテクノロジーに応用できる可能性が期待されます。
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