ステロールの過剰集積を防ぐ植物の技を解明 - 二段階フェイルセーフ・システム -
掲載日:2019/11/12
京都大学大学院理学研究科 西村いくこ 教授(研究当時、現:京都大学名誉教授、甲南大学特別客員教授)と千葉大学 島田貴士 助教らの研究グループは、シロイヌナズナの葉にステロールエステル(Sterol Ester)を集積する細胞小器官(オルガネラ)を発見し、「SEボディ」と命名しました。また、大量のSEボディを発達させる変異体(hise1と命名)と変異の原因となる因子HiSE1の解析から、生育不全を招く「ステロール過剰集積」を防ぐ植物の精緻な技を明らかにしました。HiSE1は、ステロール合成経路の鍵となるHMG-CoA還元酵素の量を適正に調節することで、ステロールの生成量を抑制します。しかし、ステロール量が過剰になった場合は、ステロールを無毒なステロールエステルに変換して、SEボディに集積・隔離します。植物は、この二段階のフェイルセーフ・システムにより、ステロール量の恒常性を安全に維持していることがわかりました。
本研究で明らかになった植物のステロール恒常性制御の技は、動物のステロール量の制御系分野の研究にも新たなブレークスルーをもたらす可能性があります。また、作物へHiSE1変異を導入することにより、ステロールエステルのみならず、同様の経路で合成される天然ゴムやグリチルリチンなどの様々な有用二次代謝産物の増産へも期待が広がります。
本成果は、2019年11月12日に国際学術誌「Nature Plants」にオンライン掲載されます。また、同時に本誌のNews & Viewsとしても紹介されます。
詳細については、こちら→ http://www-preview-engei.jm.chiba-u.jp/topics/20191112_SEbody.pdf