トピックス・イベント情報
Topics & Events

画期的なダリアの新品種2点を育成、温室での省農薬栽培と増産が可能に(三吉教授、出口助教)

掲載日:2023/03/31

画期的なダリアの新品種2点を育成、温室での省農薬栽培と増産が可能に

【概要】
 園芸学研究院の植物生命科学講座の三吉一光教授出口亜由美助教(専門:花卉園芸学)が、うどんこ病に強くかつ葉が小さく密植1)が可能な施設栽培向けのダリア(Dahlia variabilis)切り花用の2品種、「千葉大PMR2)ホワイト」、「千葉大PMRマゼンタ」を3月30日に品種登録出願しました3)。これらは、生研支援センター・イノベーション創出強化研究推進事業で千葉大学・三吉一光教授が研究代表者を務める課題『うどんこ病抵抗性と密植栽培適性を兼備し施設栽培に適したダリア切り花用品種の育成』4)によって作出されました。SDGsは人類の重要な目標です。うどんこ病抵抗性育種は農薬散布量を減らし「環境負荷の低減を可能とする」耐病性育種です。野菜では耐病性育種が比較的進んでいますが、花では事例が少なく、今回の品種がダリアでは初めての耐病性育種の成果となります。また、葉を小さく改良したことにより栽培施設内で、より多くの株を生産することが可能となり、さらに切り花ダリアの増産にも寄与できます。

千葉大PMRホワイト

千葉大PMRマゼンタ

【背景】
 ダリアの切り花は大きく豪華であり、結婚式や各種のイベントで使われるなど人気があります。ダリア切り花の商業的な生産は一年中行われておりますが、秋から翌年の春までの期間は、温暖な地域の施設栽培において生産されており、高品質です。しかし、需要の伸びに対して供給が追い付かない状態が長年続いており、増産が切望されてきました。また、施設栽培ではうどんこ病は重要病害であるため、防除のために定期的に殺菌剤を散布しなければならない状況でした。さらに、施設栽培は多額の初期投資が必要なことや後継者不足が原因となり、栽培面積は頭打ちになっています。また、これまでの切り花用ダリア品種は、葉が大きいため株と株の間を十分に空けて栽培する必要があり、施設の一定面積で栽培できる株数は上限に達していました。

【技術的な解決】
《うどんこ病抵抗性遺伝子は近縁野生種の皇帝ダリアから交雑により導入》
 これまでにも、ダリアでは『うどんこ病に強い〛として市販された品種はありましたが、本事業の前実験として行ったうどんこ病菌の接種試験によって、それらの品種はうどんこ病に十分な抵抗性を持たないことが判明しました。しかし、三吉教授らは、同接種実験によって、近縁野生種の皇帝ダリア(Dahlia imperialis)がうどんこ病に強いことを見出しました。一方、皇帝ダリアは、草丈が4-7mになり、開花時期も極めて遅く、さらに花が一重咲きで観賞価値がない等、多くの花卉園芸的には望ましくない、いわゆる不良形質を持っていました。本研究では、ダリアと皇帝ダリアの交雑後代の第五世代まで選抜を重ねて、積極的にこれらの皇帝ダリアの不良形質を排除しつつ、うどんこ病抵抗性を保持した系統を選抜しました。
 うどんこ病抵抗性は優性形質ではなく、またダリアは8倍体であることから、うどんこ病抵抗性の付与には交雑によって遺伝子を集積する必要がありました。うどんこ病抵抗性の最も強い選抜を行った第四世代では、約2万粒の交配種子を播いて得た、1万本以上の苗にうどんこ病菌の人工接種を温室内で行い、うどんこ病に強い156個体を得ることに成功しました。うどんこ病抵抗性検定を約1万個体もの大きな集団で行った事例は、ダリア以外でもほとんど例がありません。さらに、第五世代では、鑑賞形質が優れた系統を選抜し、さらに秋田県、山梨県および宮崎県の三カ所において、鑑賞形質の安定性の評価に加えて、花の日持ち性についても調査し、実用形質を持った2品種を選びました。

《葉が小さい形質を既存の品種で見出し交雑により導入》
 葉が小さい育種素材は、三吉教授が栽培ダリアのなかから2008年ごろに見出し、育種素材として利用することにより密植栽培が可能になると着想しました。この形質は、本来は優性形質であり、交雑で得られた子孫の葉は40-60cm程度に小さくなります。しかし、うどんこ病抵抗性の素材として用いた皇帝ダリアの葉は1mを超すこともあるぐらいに巨大なため、3世代にわたる選抜を行うことによって、はじめて小葉形質を導入することができました。今回発表する2品種は、従来の品種に比べて葉が小さくなり、密植*が可能となり、温室内で栽培する株数を1.5倍まで高めることが可能となります。また、一株当たりの生産本数も従来の密度による栽培とほとんど変わらないため、結果的に温室全体の生産本数は、最大でこれまでの1.5倍となります。
これまでのダリアの育種では交雑によって新しい形質を持った品種の作出事例は少なく、さらに新品種のように、抵抗性と葉の形態の2つの形質に着目して、数世代にわたり循環選抜(繰り返して選抜を行う)を行った事例はこれまでありませんでした。
 育種の過程では、コンソーシアム代表の千葉大学の他に、構成員である秋田県農業試験場、宮崎県中央農業試験場、株式会社ミヨシにおいて実用形質の評価を行い、さらにダリア切り花の販売および普及で実績のある株式会社大田花きおよび秋田国際ダリア園から提供される情報も参考にしており、新品種はうどん粉病抵抗性と密植栽培適性を兼備するだけでなく、生産性や日持ち性などの実用形質および観賞形質ともに優れた品種といえます。

【本品種の予想される波及効果】
 近年では冬の暖房費が高騰しており、施設栽培における生産上の大きな問題になっています。これら2品種の導入によって密植栽培が可能となり、施設当たりの生産本数が増大し、さらに同時に殺菌剤の散布回数を減らすことによって、切り花一本当たりの生産経費を低減させることも可能となります。また、切り花の増産により、これまで慢性的な品不足が続いていた、ダリア切り花の大きな需要期である秋から春における安定供給に貢献できます。
 なお、2品種は品種登録後に株式会社ミヨシから販売される予定になっています。

1)標準的な栽培方法よりも、株と株の間隔をせばめて、単位面積あたりの栽培株数を高めた栽培方法
2)PMRはpowdery mildew resistanceの略で、うどんこ病抵抗性。
3)切り花ダリアではホワイト(白)とマゼンタ(赤紫)は重要な花色です。
4)イノベーション創出強化研究推進事業 平成30年度採択課題一覧

『うどんこ病抵抗性と密植栽培適性を兼備し施設栽培に適したダリア切り花用品種の育成』構成機関
千葉大学大学院園芸学研究院(代表機関)
秋田県農業試験場
宮崎県総合農業試験場
株式会社ミヨシ
青山学院大学理工学部
株式会社大田花き
秋田国際ダリア園

問い合わせ先
三吉一光 (植物生命科学講座)専門;花卉園芸学、園芸植物育種学
出口亜由美(植物生命科学講座)専門;花卉園芸学

▲ PAGE TOP