微生物化学Q&A2008 of bikou

千葉大学園芸学部•園芸学研究科
Research Group of Microbial Engineering


12月2日(第8講)

Q: プラスミド構造の絵で、マーカー、オリジン(複製開始点)などの機能を持つ部分が書かれているのをよく目にします。その他の、機能が書いていない部分のDNAには意味はないのでしょうか?
ベクターとして用いられるプラスミドは人工的に作られたものです。これは複製開始点、マーカーとなる抗生物質耐性遺伝子などを含むDNA断片を、普通は制限酵素とリガーゼを用いて切り貼りして作られます。制限酵素で切断できる場所は、別に人間が設計したものではなく、たまたまそのような配列がある場合にこれを利用して切り貼りに使う場合が多いのです。ですから、必要なマーカー遺伝子だけでなく、その横にもともとあった配列などは、プラスミド構築の際に一緒にくっついてクローン化されてくるような場合が出てきます。特に意味の書いていない部分については、プラスミド構築の都合で入ってきているので、もともとは意味があったり、知られていない機能を持つ場合もありえます。特にプラスミドを使う場合には注意する必要がない、というだけの意味です。
Q: マーカー(薬剤耐性)遺伝子を2種類もつプラスミドへの外来配列のクローニングについて
pBR322のようなプラスミドは、アンピシリンとテトラサイクリン、2種類の抗生物質に対する耐性遺伝子を同時にコードしています。組換えDNAを作成する際には、マーカー遺伝子を持ったプラスミドを用いることが便利です。pBR322では、形質転換した大腸菌をアンピシリン、またはテトラサイクリンで選択することができる訳です。2種類のマーカー遺伝子を持つ場合には、こらら遺伝子のどちらかの中に外来遺伝子が挿入されても、無傷の方のマーカーで選択することが可能です。例えば、テトラサイクリン遺伝子の中に外来遺伝子を入れたい場合、アンピシリン耐性のコロニーをいったん選択しておいて、その中からテトラサイクリン感受性となったクローンを選べばよいはずです。この辺の原理的なことについては、組換えDNA関係の教科書に必ず書いてありますから参照してください。授業でも、できるだけはフォローします。
Q: シークエンスって何ですか?
DNAの塩基配列を決定する、ということです。関連の質問で、塩基がメチル化されると配列決定できなくなるケースがあるのか、というものがありました。はい、これは場合によってはあり得ると思います。しかし、普通の制限酵素に対する修飾酵素、アデニンメチラーゼやシトシンメチラーゼなどでは大丈夫です。
Q: R因子って何ですか?
薬剤耐性菌を調べたところ、耐性に関与する遺伝子(Resistance gene)を持つプラスミドを持っていた。そのようなプラスミドをR因子と名付けました。
Q: GFPは何の略でしょうか?
オワンクラゲのもつ緑色蛍光タンパク質、GREEN FLUORESCENT PROTEINの略です。

11月25日(第7講)

Q: DNAのメチル化についてもう少し説明してください
DNAがメチル化される場合、ヌクレオチドの塩基の部分。大抵はアデニンやシトシンがメチル化される場合が多い様です。DNAを構成する塩基には4種類しかありませんが、このような修飾によりDNAの配列に4種を越えたバリエーションが出てきます。メチル化が起こることによりAGCT以外の塩基になるため、DNAポリメラーゼが複製する際の変異発生率なども影響されることもあります。このようなメチル化は様々な制御に使われており、メチル化が入ったからといって、その塩基が異常塩基として修復されることはありません。制限酵素からDNAを守るための修飾酵素は代表的なメチル化修飾ですが、この他にもDNA複製の調節に関わるDNAアデニンメチラーゼ(大腸菌)、真核細胞のエピジェネティクス制御に関わるシトシンメチラーゼなどもよく知られています。また、DNAだけでなく、例えばリボゾームRNAなども多くの場所がメチル化されて調節に関わっています。

11月18日(第6講)

Q:トランスポゾンがコピーペーストするか、カットペーストするかはDNA配列で決まるのでしょうか
トランスポゾンは多くのタイプに分けられており、タイプによって転移の形式が異なります。タイプは配列のタイプですから、そういう意味ではDNA配列で決まっています。
Q:Selfish DNAは意思をもってはびころうとしているDNAと考えていいのですか?
リチャードドーキンスの著書に「利己的な遺伝子(邦題)」というのがあり、進化は遺伝子を主体に考えるべきであって、細胞は遺伝子の乗り物にすぎないということを主張しています。DNAが、人間と同じような意思を持っているとは考えにくいですが、これはものの見方としては面白く、そう考えるといろいろなことが説明できるのも事実です。
Q: フラジェリンはどのように膜を通過するのでしょうか?
鞭毛の基部には、まるでモーターの軸受部のような構造が形成されます。この装置は回転の力を発生するとともに、細胞内からフラジェリンを外に出す選択的分泌装置としても機能します。モーターの軸の中を通ったフラジェリンは、鞭毛の中の空洞を通って鞭毛の先に達し、そこで鞭毛の先端に積み上げられます。
Q: λファージが溶原化した後、また分離して増殖することは可能でしょうか?
λファージが細胞内に入ると二つの運命を辿ります。一つは溶菌サイクルで、DNA複製をしてから頭部、尾部のタンパク質を合成し、ファージ粒子を形成して細胞を溶かして増殖します。もう一つの運命は、大腸菌染色体の決まった部位(attサイト)に相同組換えにより組み込まれ、細菌染色体と一緒に、ファージとしては休眠状態に入ります。このようなプロセスのことを溶原化、ファージの入り込んだバクテリアのことを溶原菌といいます。溶原菌が紫外線にさらされてDNAが損傷されたりすると、眠っていたファージは、バクテリア染色体から切り出され、溶菌増殖を開始します。この際の分子メカニズムについては非常に詳しく判っているので、教科書などを参照して下さい。

11月11日(第5講)

Q:タンパク質は、存在すべき場所が決まるとできあがるのか?
例えば膜タンパク質では、膜に正しく挿入されることで正しい立体構造を取るようになります。こういうケースでは、確かに場所がタンパク質の”できあがり”に必要かも知れません。

11月4日(第4講)

Q: ドメインとモジュールの違いについて?
ドメインもモジュールも、タンパク質に見られる部分構造ですが、特に厳密な区別は難しいようです。生化学事典第二版(東京化学同人)による定義を以下に載せておきます。
ドメイン:領域とも呼ばれる。分子の構造上あるいは機能上一つのまとまりをもつ領域。生体高分子、特にタンパク質の場合に多用される。構造の面からは、分子量の大きなタンパク質、特に球状タンパク質にはその立体構造がいくつかの構造単位に分かれていることがあり、これらの構造単位をドメインと呼ぶ。
モジュール:水溶性タンパク質の立体構造上で、連続したアミノ酸残基が作るコンパクトな構造単位。球状ドメイン構造は通常数個から10数個程度のモジュールに分割できる。タンパク質をコードする遺伝子上のイントロンが、モジュールの連結点によく対応していることから、進化の初期段階ではエキソンとモジュールが完全な対応関係を持っていたと推測される。タンパク質はドメインまたはモジュールを構成単位として進化したと考えられる。
Q:翻訳開始のAUG配列は化学修飾されていないのでしょうか?
翻訳開始を指定するAUG配列が化学修飾されるケースは見つかっていないと思います。少し別のケースですが、RNAが合成された後に塩基が変換されるRNA editingという現象があり、ACGコドンが変換されてAUGコドンが生じ、ここから翻訳が開始されることがあります。これなどは植物葉緑体で見つかった現象ですが、まあAUGの化学修飾とは少し異なります。
Q:未知の機能のタンパク質を調べるとき、そのタンパク質の由来する遺伝子を破壊して変化を見る方法があると思います。偽遺伝子などの、今は働いていないが進化の変遷を見るために必要な遺伝子の機能は、どのように調べていくんでしょうか?
偽遺伝子というのは、現在は機能を失っている遺伝子だと思います。従って、そのような偽遺伝子には機能はなく、機能を調べるのは難しいと思われます。現在は偽遺伝子であっても、以前は機能する遺伝子であって、それが変異などにより偽遺伝子化したはずです。また、何らかの機能のある遺伝子との相同性によって、それが偽遺伝子であると言っている訳ですから、以前はどのような機能を持っていたかも、その情報による推定になります。
Q:動物や植物の2nの染色体は、それぞれらせん構造をもっているのでしょうか?遺伝子組み換えの際に、半分の遺伝子がどうやってつながるんでしょうか?
対をなす染色体のそれぞれは、確かにそれぞれが二重らせん構造を持ったDNAです。これらが組換えを起こす場合には、そのままでは反応は開始しません。どこかの場所で、片方のDNAの一本、もしくは二本のDNA鎖の切断がおき、ここから、もうひとつの二本鎖DNAとの対合、そして組換えが始まります。これは非常に重要なポイントですから、教科書を参照してぜひ勉強してください。







Q&Aの最終更新日 :  2012-01-11