県の農業試験場での研究職
氏名:春山 直人氏
卒業学科/専攻:園芸学部生物生産科学科卒業(2003年度卒業)、自然科学研究科博士前期課程生物資源科学専攻修了(2005年度修了)
勤務先・職名:栃木県農業試験場病理昆虫研究室(虫害担当)主任研究員
経歴:2003年度千葉大学園芸学部生物生産科学科卒業、2005年度千葉大学大学院自然科学研究科博士前期課程修了後、2006年栃木県庁入庁。農業試験場栃木分場ビール麦品質研究室、農業環境指導センター防除課、農政部経営技術課環境保全型農業担当を経て、現在は農業試験場病理昆虫研究室。
(インタビュー実施月:令和3年9月)
(インタビュアー:野村 昌史教授)
Q1.なぜ栃木県を就職先として選択されたのですか?
A1. 最初から県職だけを目指していたわけではありません。研究に関することがしたかったため、博士後期課程への進学も考えましたし、国の研究所にも興味がありました。ところが、在学中に高知県の試験場の方が研究室へ研修に来られた際に、県の試験場や農業の生産現場に関するお話を聞いて、自分の研究がダイレクトに生産者さんに伝わる仕事に進みたいと思うようになりました。また、学会の懇親会などで野村先生と繋がりのある各県の試験場の方々とお話しする機会も多く、その思いが強くなりました。
Q. 実際に入ってみてどうですか?
A. 私は県庁生活の中で、農作物の病害虫対策に関する仕事に長く関わってきました。病害虫対策は、新品種の育成や収量を向上させる栽培技術と比べて地道で目立たない仕事かもしれません。しかし、産地に大きな被害を与えていた病害虫の問題が、自分の関わった仕事によって解消されていく様子や生産者さんのポジティブな反応には非常にやりがいを感じます。異動によって、研究・行政・発生予察と様々な立場から同じ課題に関わることができた点も県職員ならではの面白さだと感じています。
Q. 現在行っている研究課題を教えてください。
A. 海外からの侵入害虫であるクビアカツヤカミキリというカミキリムシが、栃木県内のモモ園に壊滅的な被害を与えています。防除体系の確立に向けて基礎的な生態研究や現地防除試験を行っています。モモだけでなく街路樹などのサクラでも枯死被害が増加しており、生産者さんだけでなく環境や土木などの他部局、国や他都府県、市町、住民とも連携しながら対策に取り組んでいます。また、栃木県の主要作物であるイチゴを加害するアザミウマ類の生物的防除やニラを加害するネダニに対する物理的・耕種的防除などについても研究しています。
Q. 試験場ではどんな一日を過ごしていますか?
A. 害虫やその天敵を使った実験を行う時間もありますが、それ以上に実験に使う植物の苗養成など圃場での栽培管理にも多くの手間と時間がかかります。また試験成績やデータのとりまとめ、論文を書いたり関係機関などとの打ち合わせをしたり様々な業務があるので、あっという間に一日が終わってしまいます。
Q. コロナ禍で変わったこととかありますか?
A. 屋外で行う仕事が多く、屋内の業務でも密となる状況が少ない職場なので、通常業務の上ではそれほど大きな影響はありません。ただし、県職員として保健所や宿泊療養施設の支援などに動員された職員もいました。また、学会などは中止かオンライン開催となってしまい、他県や国の研究者との情報交換や新たな人脈形成がしにくいと状況となっており、その点では大きく変わったと感じています。
Q2.千葉大学では、どのような学生生活を送っていましたか?
A2. 3年生で応用動物昆虫学研究室に配属されてからはほぼ毎日研究室に通い、実験をしたり論文を読んだり、時には研究室メンバーと遅くまでワイワイやったりしていました。また、同じ昆虫種を研究する国の研究者の方との繋がりができたことで、幅広い昆虫に関する知識や研究のノウハウを学ぶ機会に恵まれました。野村先生達と国内各地へ調査に行ったことも良い思い出です。
Q. 千葉大学園芸学部を選んだ理由は何でしょうか?
A. もともと生き物が好きで、特に植物や昆虫に興味がありました。大学に進むに当たり、そのような生物を研究できて、より応用的な研究ができる学部として、園芸学部に決めました。
Q3.最後に、学生へのメッセージをお願いします。
A3. 専門的な知識はもちろん大切ですが、幅広い情報や物事に触れることが多様な課題への対応力に繋がっていると実感しています。大学では好奇心を忘れずにいろいろ学び、研究室に入ってからは探求心を育んで欲しいと思います。またどんな道に進むにしても、卒業研究を通じて、先を見据えた段取りの仕方と常に課題意識を持ち行動することを身に着けておくと、仕事の充実度が大きく変わってくると思います。 以前に比べると、県職の環境は職員数や予算の削減が続き、年々厳しくなっています。決して楽しい事ばかりではないですが、とてもやりがいのある仕事なので、ぜひ進路候補のひとつに考えてみてください。
春山 直人さん、ありがとうございました!